水面で何かが光った。
「あっ、気になる」
ミオンは考えるより早く、枝から飛び立った。
青い翼が水へ向かう。その途中で、少し離れた場所に別の魚影が見えた。
「こっちも大きそう」
身体の向きを変え、二つ目の影へ飛び込む。
水から顔を出すと、今度は風で葉が大きく揺れた。
「あっちには何があるんだろう」
魚を探しに来たことも忘れ、森の方へ飛んでいく。けれど途中で、水辺に見たことのない波紋が広がった。
また気になって、すぐに戻る。

ミオンは、たくさんのことに気づける。水面の光、風で揺れる葉、遠くの音。気づいたら、すぐ動けることも強みだった。
でも、その強みが時には弱点になった。気になるものを全部追おうとして、どれも選べない。本人も、そんな自分に少し困っていた。
夕方。木々を映した水面が、深い緑から金色へ変わり始めた。
ミオンは石の上で息を切らしていた。
「あれ……ぼく、今日は何をしに来たんだっけ?」
ミオンとハクトは、これまで挨拶を交わすくらいで、ゆっくり話す機会はほとんどなかった。
その時、少し離れた木の陰から声がした。
「いっぱい気になるものがあったんですね」
気づくと、そこにハクトが立っていた。
責められると思っていたミオンは、少し意外そうな顔をした。
ハクトは、それ以上説明しなかった。
「……ところで、本当は何を追いかけたかったのでしょう」
ミオンは水面を見た。
たくさんの影が動いていた。でも、自分がどれを追っていたのかは分からなかった。

ハクトは立ち上がる前に、ミオンへ声をかけた。
「明日、よければ僕の家に来てください。渡したいものがあります」
翌日。ミオンがハクトの家を訪ねると、ハクトは背負っていたバッグから、小さなボイスレコーダーと片耳イヤホンマイクを取り出した。イヤホンマイクは一つだけ。耳につける向きを変えれば、右にも左にもつけられる。

ハクトは説明を長く続けず、小さなメモを添えた。
前の夜に、明日したいことを短く録音する。
片耳イヤホンで、朝に聴き返す。
レコーダーとマイクは防水。水辺でも気にせず、本当にやりたいことを探していい。
その夜、ミオンはすぐに試した。
「明日は水辺で……魚を見て、森の音も聞いて、それから新しい道も……」
翌朝に聴き返してみても、結局、何を一番したかったのか分からなかった。
次の夜も、録音は長くなった。
気になるものを全部しゃべり続け、途中で別のことを思い出し、何をしたいのか分からないまま終わった。

上手くできない日が続いた。
それでもミオンは、何度もマイクへ戻った。
ある夜、ミオンは短く録音した。
「明日は、朝ごはんを探す。最初に見つけた魚影を、一つだけ追う」
翌朝。水辺へ出る前に、片耳イヤホンで前夜の自分の声を聴いた。

枝へ止まると、一つの魚影を見つけた。
すぐ横にも、別の影が動いた。森の奥では、聞いたことのない音がした。
ミオンの身体は、もう飛び出しかけていた。
「ちょっと待って」
ミオンはもう一度、前夜の録音を再生した。
「追いたいのは、最初に見つけた影」
ほかのものが気にならなくなったわけではない。
それでもミオンは、一つへ身体を向けた。
「全部じゃなくて、今日はこれを見る」
水へ飛び込む。
今度は途中で向きを変えなかった。水の中へくちばしを伸ばし、狙っていた一匹をきちんと捉えた。

水から上がったミオンは、魚とボイスレコーダーを交互に見た。
「まだ、動ける」
狙いを一つに決めていたから、驚くほど早く動けた。目移りしながら飛び回っていた時間がなくなり、持て余していた体力にも、使い道を選べる余白が生まれていた。
これまでは、余った力でまた別のものへ飛びついていた。でも今日は、水辺の片づけを手伝うことも、帰ってから好きな羽根の形をゆっくり眺めることもできる。
体力が増えたわけではない。前の夜に決めた照準へ、朝の自分が戻れたから、ひとつの行動の効果をきちんと受け取りながら、次の時間まで力を残せるようになったのだ。
ミオンは、気になるものをなくしたわけではない。ひとつに集中することで、誰かのために動く時間も、自分の好きなことを楽しむ時間も、自分で選べるようになっていた。
あなたへ、ひとつの問い
気になるものすべてへ動くことで、本当に向かいたい場所を見失っていませんか。明日のあなたが、最初に狙いを定める一つは何でしょう。
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